螢(麻耶雄嵩)
堂々と「好きだ」と言えるミステリー
図書館で小説を借りました。
初回は十数ページ読んで切り上げたんですけど、
初回は十数ページ読んで切り上げたんですけど、
その後は展開が気になりすぎて徹夜して読み終わりました。
清々しいほどに面白いと言える作品です。
他人にも薦められる内容です。
(グロ要素やサイコ要素はあっても前回紹介した小説に比べれば全然大丈夫です)
他人にも薦められる内容です。
(グロ要素やサイコ要素はあっても前回紹介した小説に比べれば全然大丈夫です)
人によっては「解決していない部分もあるしミステリーじゃないだろ」
みたいな批判的な意見も出そうですが、
物語の謎は残っても
物語の謎は残っても
読み手が小説を読んでいるときに感じていた違和感を見事に解決したという点で
私の場合、頭スッキリです。
叙述トリックが好きな人はハマりそうです。
あと、作中に警察や刑事が登場せず
学生が探偵役となって解決に導くミステリーを久しぶりに読んだ気がします。
外界から孤立して、存在するかもしれないもう1人の人物に怯えたり
犯人が分からずまた死人が出るのではないかと怯えたりできたのも
久しぶりな気がします。
探偵役2人にそれぞれ事情はあるものの、推理の進行は気持ちよく
確実に真実へと近づいているところが如何にもミステリーだなあという感じです。
探偵役2人にそれぞれ事情はあるものの、推理の進行は気持ちよく
確実に真実へと近づいているところが如何にもミステリーだなあという感じです。
この小説を読み終わったら創作しようと思ったんですけど、
この完成度の高い小説は…次元が違い過ぎて書く気が起こらなかったです。
小説を読み返して鳥肌立てたり、考察サイトを漁る方にシフトしました。
ここから先はネタバレ
私が小説を読んでいる間に感じていた違和感は
「一人称(語り視点)分かりにくいな」と思ったのと
「長崎あんまり登場しないな」の2点でした。
「長崎あんまり登場しないな」の2点でした。
諫早が主人公だと思い、視点も諫早なんだろうなとは思っていたんですけど、
なんか…序盤のドライブシーンから違和感があって非常に読みにくかったんです。
また、物語中に長崎の登場が少なく空気すぎて
裏で後ろめたいことをやらかしている長崎が犯人だろうという疑心が生まれ、
裏で後ろめたいことをやらかしている長崎が犯人だろうという疑心が生まれ、
かといって、諫早の台詞を読んでいて
犯行側じゃないと分からないんじゃないかという視点漏れっぽい内容もあり、
犯行側じゃないと分からないんじゃないかという視点漏れっぽい内容もあり、
犯人捜しで惑わされました。
つぐみに手をかけ、佐世保の死亡後に車を出したのは諫早だろうし、
けど長崎も怪しいんだよな、と諫早と長崎の間で犯人像がぐるぐるしました。
で、この2つの違和感を解決した真相が
語り視点は諫早ではなく長崎だったということです。
これが分かったとき、
「諫早視点の中に長崎視点も混ざっているってことなんでしょ」と思い、
ふと松浦と諫早が個室で密談しているシーンを読み返してみたんです。
「諫早視点の中に長崎視点も混ざっているってことなんでしょ」と思い、
ふと松浦と諫早が個室で密談しているシーンを読み返してみたんです。
このとき、一番鳥肌が立ちましたね。
そう。
長崎は松浦の部屋に盗聴器をしかけていました。
この2人での密談シーンは諫早視点ではなく、盗聴器越しの長崎視点なのだと。
視点は「千鶴」表記に対して、実際の台詞は「松浦」と呼んでいるので、
確かに視点と台詞は別人だったと考えるのが自然です。
騙されていた私としては、
諫早にはつぐみという彼女がいるのに松浦にも好意を持ってしまったので
表面上では「松浦」と呼び、内面では「千鶴」と呼んでいたと考え、
完全にスルーしちゃっていました。
視点は「千鶴」表記に対して、実際の台詞は「松浦」と呼んでいるので、
確かに視点と台詞は別人だったと考えるのが自然です。
騙されていた私としては、
諫早にはつぐみという彼女がいるのに松浦にも好意を持ってしまったので
表面上では「松浦」と呼び、内面では「千鶴」と呼んでいたと考え、
完全にスルーしちゃっていました。
これ、全て長崎視点ですね。
序盤の諫早と平戸のドライブシーンの違和感の謎も解けました。
6人を車2台に分けるとなると、確かに4:2でも不可能ではないですが、
そうか。長崎視点になると3:3になります。
後部座席の平戸は、運転席の諫早の後ろではなく、
助手席の長崎の後ろに座っていたんですね。
助手席の長崎の後ろに座っていたんですね。
あと別のシーンになりますが、
長崎(私は諫早だと思っていたんですけど)に
長崎(私は諫早だと思っていたんですけど)に
ワトソンと名付けたのも読み手を騙した要因だと思います。
これは、創作の空編滋視点で大地が「副会長」呼びされていたのと似た香りがします。
役名みたいなものを付けると人物の情報をぼかせますからね…便利です。
また、考察サイトを読んで感動したのが、
部屋交換の話です。
部屋交換の話です。
真っ先に気付くべき内容なのに、気付かなかったのが純粋に悔しいです。
この話を読んだとき、意味が分からなくて館内図を見返したんですよ。
登場人物欄に掲載されていた館内図が部屋交換前の図であり、
島原と諫早で部屋を交換するとおかしくね?と考えるべきでした…
登場人物欄に掲載されていた館内図が部屋交換前の図であり、
島原と諫早で部屋を交換するとおかしくね?と考えるべきでした…
さらにネタバレ
これだけの叙述トリックだけでも凄いのに、
松浦の性別の種明かし部分でフリーズしました。
逆叙述トリックってやつです。
登場人物欄には松浦の本名が記載されいて、
そして物語の視点は松浦の性別を唯一知っている長崎視点であることに騙され、
終盤に「松浦が女である」と探偵が衝撃的情報かのように開示し
メンバーが尋常じゃないほど驚いたことに、
私自身も別の意味で驚いて「え、どう見ても女でしょ」となりました。
襲われた松浦の傷を確かめるために島原が松浦の胸元を開けようとしたとき、
松浦の無事をなんとしてでも確認したい島原と
松浦に好意を持っていて裸を見られたくない諫早のやり取りに見えましたが、
松浦を女だと知らない風な島原と
松浦を女だと唯一知る人物と過信する長崎の攻防戦だったんですね…
因みに、その後すぐ
「一人足りんな」からの風呂場行ってからの諫早の遺体発見描写で
「いや、お前(語り視点)誰だよ」と私は混乱したので
読み手としては、そんなもの気付きどころではなかったです。
そして、諫早も松浦を女性と認識していなかったことを知り、衝撃を受ける私の図。
想像以上にいや以下に?諫早って何も情報を知らなかったんですね…
諫早に抱いていた優男のイメージは、長崎のストーカー気質のものだったんですよね…
諫早の性格って案外非情なのかもしれません。
想像以上にいや以下に?諫早って何も情報を知らなかったんですね…
諫早に抱いていた優男のイメージは、長崎のストーカー気質のものだったんですよね…
諫早の性格って案外非情なのかもしれません。
話は変わりますが、
共犯者(諫早)と真犯人(長崎)のすれ違いが面白かったです。
人狼ゲームでいう人狼陣営と妖狐陣営の対立みたいな印象。
諫早は佐世保とフミエが刺し違えたと勘違いして真犯人がいることを知らずに
余計な動きを取っていました。
今振り返ると諫早が松浦へ牽制したのは
単純に自分が共犯であることを気付かせないための保身と読み取れます。
一方、長崎は佐世保が亡くなった翌朝まで
つぐみの件で共犯者がいることを知らずに動いていました。
そして共犯者が誰なのかは島原の推理を聴くまで判りませんでした。
つぐみの件で共犯者がいることを知らずに動いていました。
そして共犯者が誰なのかは島原の推理を聴くまで判りませんでした。
お互い、一部情報を知らずに動いていたのがそそられますね。
最後の考察
物語の最後、この物語の最大の謎レベルの謎。
生存者は誰なのか?という話。
第一印象では、七人(佐世保+学生全員)見つかって一人生存…誰だろう?
というところでしたが
よく考えると七人遺体で見つかって一人生存なんですよね。
よく考えると七人遺体で見つかって一人生存なんですよね。
つまり主な登場人物となる
佐世保、平戸、大村、諫早、長崎、松浦、島原では足りないということです。
じゃあ誰なのかというと小松響子かフミエになるわけですよね。
1)松浦生存説
個人的に「ただし女性一人の身許はまだ判っていない」が引っかかっていて
個人的に「ただし女性一人の身許はまだ判っていない」が引っかかっていて
あえて性別を表記する意味はあるのか…?と。
遺体は男ばかりで唯一見つかった女性の遺体は身許不明だったと捉え
この遺体を小松かフミエだと仮定するとこの2人は死亡が確定しているので
松浦が生存者じゃないかと思うんですけど、雑考察すぎますかね。
まあ、プロローグのつぐみの記事にも「女性の遺体」とあるので
この根拠は弱いです。
けど、考察サイトも名前イニシャル考察では松浦生存が濃厚っぽいです。
2)長崎生存説
ただもう1つ引っかかることがありまして
「土砂崩れが起き近くの山荘が損壊した件」
「合宿で当山荘に滞在していた際に、土砂崩れに巻き込まれたもよう」
「明らかな他殺死体も含まれており」
「大学生の容態が快復次第、事情を尋ねるもよう」
「現場の山荘は奇しくも、十年前に六人が惨殺される事件が起きた場所」
あたりを読んでいると、建物は「損壊」とあり、損壊の程度が分からないんですよね。
一部損壊という表現もあるわけで。
また「土砂崩れに巻き込まれたもよう」が遠回しに見えて、
土砂崩れが死亡の直接的な原因ではないんじゃないかと勘繰ってしまいます。
「明らかな他殺死体」の表現も「明らかじゃない他殺死体」があるんじゃないかと。
つまり、あのあと長崎は十年前の事件と同じように狂い残りの人物を殺め、
土砂崩れに巻き込まれたように見せかけた…という思考の余裕は無いと思うので
警察はひとまず土砂崩れに巻き込まれたというていで調査を進めると同時に
生き残った長崎に殺害された線も視野に入れて、長崎が快復したら事情を尋ねると。
何より気になるのが「容態が快復」なんですよね。
まあ、病気や怪我は「快復」の字らしいんですけど、
「容態が回復」も間違いでは無いと思うんです。
あえて忄(立心偏)の字を使ったのは、
心に異常をきたしている長崎が生存して、
とても事情を訊ける状況じゃないので(心の)病が快復してから尋ねるという意味にも
見えるかなと。
考察サイトも名前地名考察になると長崎濃厚になるんですよね。
私の中で生存者は松浦か長崎といったところです。
いやあ、久しぶりに理想のミステリー小説を読めました。
満腹です。
この遺体を小松かフミエだと仮定するとこの2人は死亡が確定しているので
松浦が生存者じゃないかと思うんですけど、雑考察すぎますかね。
まあ、プロローグのつぐみの記事にも「女性の遺体」とあるので
この根拠は弱いです。
けど、考察サイトも名前イニシャル考察では松浦生存が濃厚っぽいです。
2)長崎生存説
ただもう1つ引っかかることがありまして
「土砂崩れが起き近くの山荘が損壊した件」
「合宿で当山荘に滞在していた際に、土砂崩れに巻き込まれたもよう」
「明らかな他殺死体も含まれており」
「大学生の容態が快復次第、事情を尋ねるもよう」
「現場の山荘は奇しくも、十年前に六人が惨殺される事件が起きた場所」
あたりを読んでいると、建物は「損壊」とあり、損壊の程度が分からないんですよね。
一部損壊という表現もあるわけで。
また「土砂崩れに巻き込まれたもよう」が遠回しに見えて、
土砂崩れが死亡の直接的な原因ではないんじゃないかと勘繰ってしまいます。
「明らかな他殺死体」の表現も「明らかじゃない他殺死体」があるんじゃないかと。
つまり、あのあと長崎は十年前の事件と同じように狂い残りの人物を殺め、
土砂崩れに巻き込まれたように見せかけた…という思考の余裕は無いと思うので
警察はひとまず土砂崩れに巻き込まれたというていで調査を進めると同時に
生き残った長崎に殺害された線も視野に入れて、長崎が快復したら事情を尋ねると。
何より気になるのが「容態が快復」なんですよね。
まあ、病気や怪我は「快復」の字らしいんですけど、
「容態が回復」も間違いでは無いと思うんです。
あえて忄(立心偏)の字を使ったのは、
心に異常をきたしている長崎が生存して、
とても事情を訊ける状況じゃないので(心の)病が快復してから尋ねるという意味にも
見えるかなと。
考察サイトも名前地名考察になると長崎濃厚になるんですよね。
私の中で生存者は松浦か長崎といったところです。
もう1冊読んでみたい
しばらくは無理ですけど、次回に読む小説も麻耶先生の本を読んでみたいですね。いやあ、久しぶりに理想のミステリー小説を読めました。
満腹です。
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