新 謎解きはディナーのあとで(東川篤哉)
2023年の目標を早々に達成
2021年5月16日の
「謎解きはディナーのあとで ベスト版」ブログに記載した通り
本を借りられるのは2023年頃かと思っていたのですが、
図書館が本を複数冊投入してくれたおかげで
2022年内に借りることができました。
2023年中に読めればなあ
…という今年の読書目標でしたが
新年早々に達成!!やったね!!
収録内容は全五話。
最後の話に関しては小説書き下ろしとなります。
- 第一話「風祭警部の帰還」
「きらら」2020年1・2月号「富士山と沈む夕日のアリバイ」より改題
- 第二話「血文字は密室の中」
「きらら」2020年3・4月号
- 第三話「墜落死体はどこから」
「きらら」2020年5・6・7月号
- 第四話「五つの目覚まし時計」
「きらら」2020年8・9月号
- 第五話「煙草二本分のアリバイ」
書き下ろし
今作の一番の特徴としましては、
栄転していた風祭警部が国立署刑事課に戻って来たこと。
…ではなく
新米刑事若宮愛里(わかみやあいり)というレギュラーキャラが
追加されたことになります。
(風祭警部はほぼ通常運転なので、ね?)
若宮刑事がどういうポジションになるのか
読む前から気になっていたのですが、
性格としては天然×素直。
空気を読まずに本音を言って風祭警部を怒らせるという、
風祭警部の前では麗子は空気を読むキャラなので
麗子が言えないことを代わりに言ってくれる
麗子の代弁者ポジションでありつつ、
(ただ、後半の話へいくにつれて多少空気を読めるようになります)
(が、麗子の気持ちとシンクロしていることに変わりはありません)
純朴だからこそ風祭警部の悪ノリに加担もしてしまうという、
準風祭ポジションでもありつつ、
総合して表すなら
麗子・風祭ブーストポジション。
そういう印象を受けました。
また、この新米刑事、何気に運動神経が良いんですよ。
第二話では麗子のディフェンスを掻い潜って
リムジンに乗る影山の顔を把握する俊敏さ、
第四話では逃走しようとする犯人を池に叩き落とすパワー。
若宮刑事はひょっとすると
影山の補填(麗子のナイト)ポジションも務められるんじゃないか
という気さえしました。
影山は頭脳は良いですけど、
運動能力に危うさがありますからね。
そう考えると、若宮刑事、ポジション多すぎでは??
第一話のとある場面で
「若宮って怪盗なんじゃないか?」
という考察をしてみた時期もありましたが
話数を読み進めていくうちに
「無いな…」と思い始めたので
(そもそもこのシリーズで考察すること自体邪道…)
今後、若宮刑事の設定が掘り下げられたら
怪盗考察を笑い飛ばしてください。
まあ、若宮刑事はリムジンに乗る影山を見てしまったので
麗子の身バレはそう遠くない気がします。
そのときに麗子の理解者になってくれるのか、敵対するのか、
若宮刑事が物語の鍵となってくるのは間違いないです。
ここから先はネタバレ
第一話「風祭警部の帰還」
部屋の入れ替えトリックを疑う話です。
風祭警部が部屋の入れ替えトリックを提言し、
最も風祭警部が輝いていた(良い線いってた)時期とも言えます。
もしかして今作の風祭警部は一味違うのでは??
と期待させられる第一話でしたが、
以降の話から元に戻っていきます。
ですが、第一話があるからこそ
「今回の風祭警部の推理、当たっているのでは?」と
微かな期待を思わせてくれる厄介な存在になりましたね。
個人的に「南武線の光景も見えて…」という証言から
電車が走っていることまで読み取れなかったので、
テレビを使用したトリックだということは気付いていたんですけど、
録画映像を使用した犯行をどのように証明するかは
予測できませんでした。
まあ、南武線が止まっていた情報は
後々使われそうだなと踏んでいましたけども。
第二話「血文字は密室の中」
容疑者取り調べからのスタート。
ダイイングメッセージに書かれた人物が取り調べを受けます。
第二話では『内出血密室』が焦点となり
(ダイイングメッセージの信憑性に関わる話)
風祭警部はそれを推理します。
私も風祭警部と同様に
一度襲われた被害者は犯人から身を守るために
土蔵へ避難して鍵をかけたのでは
と思っていたので、
遂に風祭警部は推理をズバリ当てたのでは
とドキドキしながらページを読み進めていました。
が結局、元々鍵はかけられていなくて
開かないように小細工した扉と
元々壊されていたカンヌキと
偽造されたダイイングメッセージという
内出血密室に見せかけた犯行なのでした。
風祭警部の推理はズバリ見事に外していましたけど
『内出血密室』を知っていることに私は驚きました。
(用語として初めて聞きました私)
凄いよ!風祭警部!!
第三話「墜落死体はどこから」
第三話では
- 転落死体
- 刺殺死体
が出てきます。
転落した死体から血の付いたナイフが出てきており、
この二つの事件の関係性が問われるお話です。
そもそも転落死体について
被害者がどこから転落したのかが謎なので
そこがある意味推理の焦点ではありましたね。
風祭警部の推理では、
人がいない時間帯に
犯人が雑居ビル屋上から被害者を突き落とし、
時間差で地面の衝撃音を出して
今まさに人が落ちたように演出した
という内容。
風祭警部の推理、好きなんですけどね。
ただそうすると
ナイフで刺された刺殺死体の説明がつきません。
ということで、真相はこうなります。
- 『刺殺される被害者』の身内が『転落する被害者』をベランダから手引き
- 『転落する被害者』が『刺殺される被害者』をナイフで刺す
- 『転落する被害者』がベランダから戻るところを『刺殺された被害者』の身内の裏切りに遭い転落
色々と細かいところは割愛していますが
(今回、結構複雑なトリックでしたので)
被害者の身内と第三者が共謀して刺殺死体を作り出し、
被害者の身内が第三者を裏切って転落死体が生まれたという流れでした。
ちょっと難しいトリックでしたが、
ストーリー的な魅力としては
麗子のヒールに踏まれる影山の姿が拝めます(笑)
ここの麗子と影山のやり取りが(p158~159)
めちゃくちゃ好きなんですよー
多分、シリーズ通して最も余裕の無い影山が読めます。
苦悶の声を絞り出し、
投げやりに言い放ち、
哀れな喘ぎ声と最後に悲鳴という、
本来の主従ってこういうことですよね!!
(違います)
第四話「五つの目覚まし時計」
冒頭の語り手が麗子ではなく
第三者というのも珍しいような。
(因みに第五話も同じ手法でした)
被害者は看護師の女性。
現場はシェアハウスで被害者の自室なのですが、
そこには目覚まし時計が5個あり
1つだけ時間がズレているという不可解な謎。
もうこの頃には風祭警部もすっかりポンコツです。
第一発見者から疑い始めます。
(そしてすぐに撤回しています)
感想としては容疑者(シェアハウスの住人)の
設定が風祭警部並みに濃かったです。
特に、メンバー1人のイケメン研究会会長の山下彩は
(逆に「経済学部」なことが浮いているという)
これで終わりにするには惜しいキャラでした。
トリックもちょっとしたゾワッと感があって好きです。
目覚まし時計は5個ではなく、本当は6個あり、
残り1個は盗まれたスマートフォンだったこと。
起床用の目覚まし時計は
時間がズレていない目覚まし時計4個
+スマートフォン、
時間のズレている目覚まし時計1個は
夜用に使用されていたのです。
(テレビをリアタイするためのアラーム的役割)
事件前夜に自室にいたにもかかわらず
鳴りっぱなしのアラームを聞いたという
証言をしていない人物が怪しいぞ?
となり、その人物が犯人というオチでした。
この第四話では
若宮刑事の性質がギュッと詰まっているので
時間が無い人は第四話だけでも読んで欲しいですかね。
第一発見者にタメ口で応対される
『他人に舐められる性質』、
風祭警部のブリュッセル自慢に対して
「あたしも行ってみたいです、スペイン!」みたいに返答する
『基礎教養の低さ』、
犯人を池に叩き落す
『獰猛さ』、
今、振り返ってみると
若宮刑事のキャラ設定は化け物級なのでは…??
第五話「煙草二本分のアリバイ」
イケメン男子学生が殺害され、
現場のアパートの前にいた証言者が
煙草一本を吸い終わった頃に
人がアパートの門を通っていき
さらに煙草一本を吸い終わった頃に
人がアパートの門から出ていく
ところを見たことから
「煙草二本分のアリバイ」という
タイトルになっています。
人の出入り=犯人の出入り
でアリバイの無い人物が犯人とされていましたが、
それは間違いで
- 人がアパートに入る=被害者
- 人がアパートから出てくる=犯人
が真相です。
そうなると、
20:00 被害者帰宅
20:05 犯人到着(証人目撃)
20:10 犯人逃走(証人目撃)
という風祭警部の推理が崩れ、
19:55以前 犯人待ち伏せ
20:00 被害者帰宅(証人目撃)
20:05 犯人逃走(証人目撃)
が浮かび上がります。
まあ、ほんの少しの差なんですが
容疑者三名のアリバイ時刻も5分単位でズレているので
風祭警部の挙げた犯人と
影山・麗子で導き出した犯人が違う
という結果になりました。
風祭警部の推理はボロボロだったのに、
後日譚では風祭警部が楽しそうで何よりです。
影山は慎重さを併せ持つキャラクターなのですが
容疑者三名のうち二名の無実が証明された際、
影山がアリバイのない人物=無実とは限らない
と冤罪を恐れていたことが引っかかりました。
このシリーズで考察するのも無駄な気もしますが、
影山は犯人が栗山以外の可能性も考えていたのでは?
と脳裏をよぎりました。
第五話の冒頭は、山川視点の
「被害者との電話シーン」から始まります。
この山川視点について当然麗子たちは知らないので
それを伝え聞く影山も知らない情報のはずです。
つまり、山川視点以外で山川がどこから電話したのか
不明なままなのです。
(被害者の電話内容を聞いていた)証言者が
「もう部屋に着いた」「また連絡する」
と話していたことから、
少なくとも被害者は山川と会う予定を設けていないので
山川が被害者宅に忍び込んで
奇襲をかける形になるのではと思いますが、
影山視点で
山川は容疑者候補に入るはずなんですよ。
麗子は影山に対して
「梶(風祭警部が挙げた犯人)を誤認逮捕するところだった」
と言ってお礼をしていましたが、
影山は自分の推理すら誤っているかもしれない
と思ってのラストの動揺だったのかなあ…ってカンジで、
私は二重の意味で読み取ってみました。
まあ、今回の影山の推理は犯人の証明は出来なかったと思うので、
(水澤が国立署に来なければ証明の糸口さえ掴めなかった)
影山がいつも以上に控えめに感じたのも納得
…ですかね?
二日かけて読了
ボリュームはそこまで多くないですが
年齢のせいでしょうか、
一気読みが出来ませんでした。
というのもありますが、
この作品は一気読みよりは話数ごとに
分割して読んだ方がいいかもしれません。
感覚としては
水をずっと飲んでいる行為と似ていて、
一気読みしていると
途中で飽きが来てしまうんですよね…
まあ、読み方は個人の自由!!
面白さの総量に変わりはないので
今後も追っかけていきたいタイトルです。
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