月の扉(石持浅海)
水平思考クイズに近い楽しみ方で
2021年5月21日の感想ブログの小説と同じ作者です。
あれ以降「碓氷優佳シリーズ」は読めていませんが、
作風は好きなので同じ作者でまた読んでみたいなと思っていました。
あらすじとしては、
離陸前の飛行機を男女3人組が乗っ取る中、
飛行機のトイレで女性1人が死亡、
乗客1人が探偵役となって真相を解き明かす
という内容でした。
以前読んだ「扉は閉ざされたまま」と同じく、
動機が見所かなと思います。
殺人犯の動機に限らず
3人組が飛行機を占拠した動機然り、
他にも不自然な態度・行動を起こす人物がいるので
彼らの行動の意図・動機も見所です。
ただ、この動機については
人を選びそうな気がします。
本の解説にも記載されていた通り
この作品は「幻想要素」が絡んできます。
いわゆるオカルト要素です。
科学的思考(というよりは現実主義者?)な人には
相容れない部分があると思いますし、
あとは、宗教に拒否反応が出る人もオススメしません。
不登校児が参加すると
元気になって立ち直るという「キャンプ」。
このキャンプを運営するスタッフが
作中で飛行機を占拠しています。
「キャンプ」がいかにも怪しげな宗教団体に見えますが
そのキャンプを主催する「師匠」と慕われる人物は
カリスマではあるものの野心は全くありません。
人を変える力はあるんですけど、
その力を利用して何か企てようとは考えていないんです。
そこだけが巷の宗教団体とは違うところです。
ですので、この小説には
「良心」というものが存在します。
私はこれまで胸糞と言える小説も読んできていますが、
この小説に関しては、胸糞の部類には入りません。
一般の方にも勧められると思います。
人を選びそうなのは置いといて。
トリックについての感想は、
飛行機占拠3人組が乗客を監視する中で
個室トイレで女性が亡くなることから
密室殺人が発生しますが、
(自殺や事故の可能性もありましたけど)
その犯人については結構分かりやすかったです。
何なら事件が発覚する前から
犯人が分かりました(笑)
事件のトリックを推理するよりかは、
探偵役と容疑者たちの質疑応答を
水平思考クイズを見ているかの感覚で読んでいくと
それなりに楽しめるかなと思います。
ここから先はネタバレ
読んでいて、ストックホルム症候群になりましたね。
勿論、飛行機を占拠するのは駄目ですけど、
彼らに時間が無いとなると
手段は限られていたでしょう。
いや、飛行機占拠3人組の目的が
私情で逮捕された(=冤罪)師匠を
飛行場に連れてきてもらうことであり、
脅して人質こそ取っているものの
一切人を殺していないので
3人の最期はもう少し報われても良かったのでは?
って感想を抱きました。
特に飛行機を占拠したうちの1人、
真壁が撃たれたところは
脳内で鮮明に映し出された感覚を持ち、
私にとってはショッキングな内容でした。
探偵役と推理合戦(という表現は正式ではないけども)
している間は真壁のキャラは好きでした。
飛行機占拠3人組の中で真壁が一番好きでしたね。
真壁と同じくらいに好きだったのが探偵役の座間味。
座間味Tシャツを着ていたからそう呼ばれているのであって
終始本名は分かりませんでした。
内容には関係無いですが「ざまみ」という
言葉に出してみたいクセ感も堪りません。
性格は非情かと思いきや
理性的に恋人や人質、乗客を救おうとしていたので
この小説の一番の良心が座間味だと思います。
典型的な巻き込まれ型主人公でしたね(笑)
どんでん返しは無いものの
一応、クローズド・サークルでお馴染みの
見取り図が序章前に挟まれていました。
飛行機の座席配置図です(笑)
クローズド・サークルでは重要とされる見取り図
(※私の経験則による主観)ですが、
この小説では、犯人推理で特に役立ちませんでした。
「だ、騙された~」という要素は薄いんですけど、
ラスト、飛行機占拠3人組のうち1人が裏切ったことについては
私も気付いていなかったので新鮮でした。
この裏切りの伏線が巧妙で、
説明されると「確かに」と納得できるのが
個人的にこの小説で推したいポイントでした。
皆既月食の瞬間に師匠の能力で「再生の世界」への扉を開き、
死なない状態で再生の世界へ行くと永住することができます。
つまり、つらい現世へ生まれ変わらずに済むということ。
師匠とその信者たちは再生の世界で永住することを目指していました。
この話の落とし穴は
再生の世界に永住できる権利を持っているのは
皆既月食の時点で現世で生きている人間のみで(※ただし条件アリ)
死んだ者には適用されないということです。
仲間を裏切った柿崎は
亡くなった自分の子どもが救われて欲しいと願いますが、
師匠が再生の世界で永住することは
言い換えると師匠は二度と生まれ変われないというわけで
柿崎の子どもが生まれ変わったとしても
救われることはないことを意味しています。
そう考えると、
柿崎が師匠を助ける(飛行機を占拠する)
という行為は矛盾していて、
師匠を殺し、再生の世界の永住を阻止して
師匠を生まれ変わらせる状態にする
(輪廻転生を経て柿崎の子どもと師匠を出会わせる)
という真の目的が見えてきます。
流石にそのあたりは探偵役の座間味も
ギリギリアウトまで気付けず、
師匠と飛行機占拠3人組は輪廻転生エンドへ…。
まあ、師匠+飛行機占拠3人組+柿崎の子ども
が生まれ変わって出会えるのなら
遠い目(来世あたり)で見てみれば
幸せエンドなのかもしれません。
「月の扉」という小説タイトルから
どういう話だろうと思っていましたが、
そのまんま「月の扉」の話でしたね。
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