仮面山荘殺人事件(東野圭吾)

2020/11/15

ネタバレあり 小説

仮面山荘殺人事件(東野圭吾)

 2つの事件は同一犯なのか別人による犯行か

東野圭吾先生第二弾の感想記事です。
こちらの本も、かなり読みやすかったです。
借りてからすぐに最初の20ぺージほど読み進めて放置していましたが、
そこから最後までは5時間くらいで一気に読み終わりました。
しかも、ちょいちょい戻って読みながらのペースだったので
実際はもっと早く読めたかと思います。

あらすじとしては、
高之の婚約者である朋美は
結婚式を挙げる直前に、自身の運転する車が転落して死亡。
その死から3ヶ月後、朋美の親族から別荘に招待された高之が山荘を訪ねます。

―ここから物語は始まります。

参加者は朋美の父、母、息子(朋美の兄)、高之の他に4人の関係者がおり、
計8人が朋美の父の所有する別荘に集まります。

その日の夜。
高之は関係者のうちの1人、朋美のいとこにあたる雪絵から
「厨房に知らない誰かの話し声がする」と呼び出されます。
2人が確認しに行くと、武装した男2人組に捕まり、
その後、山荘が占拠されて全員が拘束されます。

男2人組の目的は銀行強盗をして逃げている最中ということで
もう1人と山荘で合流するために潜伏していたのだとし、
合流の日まで山荘にいる全員は不自然な行動を起こさないよう
見張られることになります。

銀行強盗犯が見張る中で、次の朝。
雪絵は背中にナイフが突き刺された遺体で見つかります。
遺された雪絵の日記帳には朋美が事故死した日のページだけが破られており、
雪絵の事件が朋美の死に関係あるのではないかという推測が浮かび上がります。

果たして雪絵は誰に殺されたのか、そして朋美の死の真相は…?
これが、今回のポイントです。

「ある閉ざされた雪の山荘で」と比べると少し後味悪い気もする結末でしたが、
どんでん返しな展開に、驚きでつい笑ってしまいましたね。

ここから先はネタバレ

この話を全て読み終えてまず思った感想が
「これ、GREAT PRETENDERだわ」です。

高之へ復讐、白状させるために、
朋美の身内はおろか
銀行強盗犯と見回りの警察官もグルとなり
さらには雪絵の殺人も演技で、高之への種明かし後に登場とか
もうグレプリのテンションですね。

朋美が事故を起こす直前に鎮痛剤と睡眠薬を入れ替えられ
誤って睡眠薬を服用して転落した、というように
朋美の死はまさに「薬」が鍵となったわけですが、

物語序盤から私は高之の薬への執着に違和感を覚え、
高之が薬を入れ替えた人物なのだとずっと怪しんで読んでいました。
ですので終盤に高之が朋美の父の首を絞めようとするシーンでは
「せやろせやろ?」と、しめしめ思いました。
…決して「締める」と「しめしめ」でギャグにしたつもりじゃないですよ?

しかし、そんな単純な話でも無いのです。

時系列を遡って、
高之は事故後に朋美の遺品の薬ケースを確認しており
薬が残っていたことから高之は
「朋美は何の薬も飲んでおらず別の要因で車が転落した」と思い込んでいたわけです。
したがって高之自身、事故には無関係であり「探偵役」なのだと、
朋美の死は本当に事故なのか、誰かによる殺人なのか分からない状態で
途中まで読者と一緒になって推理しているんですよ。

そう、今回も叙述トリックが入っています。

叙述トリックのポイントとしてまず第一に、
「高之が朋美の薬をすり替えた」という情報を読者に伏せたまま
絶妙に高之視点と読者視点で食い違い(アンジャッシュ)が発生していたこと。

叙述トリックのポイントとして第二に、
事故後、雪絵は高之が薬を入れ替えたことに気付き、高之を庇うために
遺品確認時点で薬を補充していた(それも嘘なのですが)、
と発覚してから徐々に「高之が朋美を殺した」と高之が気付き始め、
高之視点と読者視点で乖離していったことですかね。

私は高之に好感を持っていても信用はしていなかったので
叙述のネタ晴らしにはそこまで驚きなかったんですけど、
そのあとの

  • 一連の出来事全てが高之を陥れるための演技だったこと
  • 朋美は本当に薬を飲んでいなかったこと
  • 朋美は薬が入れ替わったことを認識しながら高之を庇うために睡眠薬は廃棄して自殺していたこと(直前に会っていた雪絵に薬が違うことを指摘され、同じ薬を飲んでいる彼女から本物の薬を貰い、朋美は偽物は捨て本物も飲まずに薬ケースへ戻した形)

には、そこまで頭が回っていなかったので驚きました。
内容では笑えないですけど、想定を超えた展開につい笑ってしまったわけです。
「どんでん返し」と言いますか「どんでんどんでんぐり返し」くらい
展開されていた感覚でした。

読み終えて本を閉じたあと「マジかwww」と
つい呟いてしまうくらい面白かったです。

演技だと分かると納得する点

読んでいる最中はそこまで引っかかっていなかったものの
読み終わったあとに腑に落ちたところがありました。

銀行強盗犯のタグがライフルをテーブルに置いて隙を見せた際に、
高之はそのライフルを奪おうとするのですが、
高之が奪う前に朋美の兄が先に奪ってしまい
代わりに銀行強盗犯のジンを脅した場面です。

不自然では無いんですけど、何故か最後まで引きずっていたのです。

全て演技だと分かったあとは
「本当に引き金を引いたらライフルが偽物だと分かるからだろうなあ」
と勝手ながら納得しています。

朋美の兄が先にライフルを奪って
ジンの口車に乗せられたフリをして引き金を引くのを止める、とすれば
高之にはバレずに済ませられますからね。

ジンが何が起こったのか分からないような顔をしていたのは、
ライフルを奪ったのが朋美の兄の気転による脚本に無いアドリブで
ジンは素でびっくりしていたんじゃないかな、と思うと可愛いですね。

第五幕 探偵役

この物語に本当の探偵はいませんでした。
第五幕の下条の推理は高之を白状するための布石に過ぎません。
あくまで探偵「役」なんです。

「ある閉ざされた雪の山荘で」に登場する久我にはかなり好感を持てたので
今回も期待していたのですが、
「探偵役」がいないだけでこんなにも雰囲気が変わるんですね。

高之にしても朋美の身内にしても雪絵にしても
今回はなんか報われないオチで、
グレプリみたいな爽快さも確かにあるものの
ちょっと後味の悪い終わり方でした。

最後の描写

山荘の玄関のドアの上に飾られていた仮面が最後には取り外されていた意味について
しばらく考えていたんですけど、
山荘を出るときには高之の仮面が外れた(化けの皮が剝がれた)
とシンプルに受け止めれば良いやつでしたね。

成程。
だから「仮面山荘」というわけですか。

QooQ