謎解きはディナーのあとで ベスト版(東川篤哉)

2021/05/16

ネタバレあり 小説

謎解きはディナーのあとで ベスト版(東川篤哉)

謎解きは青春とともに

シリーズモノの推理小説といえば、
青春とともに歩んできたタイトルもありまして
読むと物語と同時に学生時代の記憶が蘇る、
特別な感覚なんかがあったりしますが
「謎解きはディナーのあとで」シリーズはそのうちの1つです。

当時、図書委員会で本の整理中に
「謎解きはディナーのあとで3」を見つけて嬉しくなって借りた記憶があります。
図書委員じゃなければ気付かなかった、そんな感じです。はい。

実写ドラマも観ていました。
今ではすっかりドラマを観なくなったので
ドラマ自体がどこか懐かしいですね。

今回「ベスト版」を読んでみたんですけど
ただの傑作選ではありません。
収録内容は全4編。

  • 第一話 二股にはお気をつけください
「謎解きはディナーのあとで」より

  • 第二話 アリバイをご所望でございますか
「謎解きはディナーのあとで2」より

  • 第三話 犯人に毒を与えないでください
「謎解きはディナーのあとで3」より

  • 第四話 殺意のお飲み物をどうぞ
新作書き下ろし

なんと、書き下ろしがございます!
しかもこの書き下ろしは「新謎解きはディナーのあとで」
へ繋がる話だそうです。

現在「新謎解きはディナーのあとで」の図書館予約数が凄いので
借りられるのは再来年あたりかなと思うんですけど
とりあえず今回はベスト版の感想、
というか内容を忘れないようにメモしておきます。

「謎解きはディナーのあとで」の印象

過去の話はマジで覚えていない、
という残念記憶力だったので
今回は過去収録分を含めて最初から読み直しました。

「謎解きはディナーのあとで」の
良いところ(同時に悪いところでもある)は
読者へ委ねる考察部分が少ない点です。

料理で例えるとファストフードみたいなものですかね。
「食べやすさ」ピカイチでドロドロとした後味悪さを感じさせません。
だからか、登場人物や
影山が事件を推理するというテンプレートは
ずっと覚えていられるのですが
肝心の中身の事件を全く覚えていなかったりします私は。

強烈嗜好の人や出汁のような味わい深さを好む人には
物足りないかもしれません。

ここから先はネタバレ

第一話 二股にはお気をつけください

全裸の変死体と
証言者によって変化する身長の犯人像
という謎。

トリックとしては、
被害者がシークレットシューズを履いていたか
犯人がシークレットシューズを履いていたかで
身長に関する証言が変わっていき、
そしてシークレットシューズを履いていた痕跡を消すために
被害者が全裸だったわけです。

もしかすると「シークレットシューズ」の存在を初めて知ったのが
学生当時の「謎解きはディナーのあとで」を読んだときだったかもしれないな、
と読んでいてふと思い出したのでした。

別作品ですけど、
「駆け落ち」を覚えたのもミステリー小説なので
ミステリー小説は色々と勉強になる本なのかもしれません。

第二話 アリバイをご所望でございますか

被害者の元カレが怪しいんだけどアリバイがある
という事件。

種明かしとしては、
本来別れるのに反対していた被害者が
元カレを呼び出して襲おうとする手筈だったのが、
実際は元カレから返り討ちにされてしまい
襲った側が亡くなってしまったわけです。

で、正当防衛とは言えやってしまった元カレは
友人にアリバイ工作を頼み込み
偽証言を準備してアリバイを作っていたのですが、

被害者側もまた元カレを襲うつもりでいたので
亡くなる前に既にアリバイ工作をご近所さんへお願いしており
偽証言が出てしまったのです。

この2つの偽証言と(元カレが殺害後に喫茶店にいた)事実から、
元カレのアリバイは証明されたんですけど、
逆にこの2つの偽証言と事実のせいで元カレのアリバイ工作が浮き、
さらに被害者側の偽証言者視点では元カレが犯人であることがバレてしまうので、
元カレがそれに気付いて被害者側の偽証言者を襲いに行くんじゃないか
という影山の推理でした。

影山が麗子の前で事件を解いても
リアルタイムでまだ事件が続いている
(元カレが被害者側の偽証言者を始末しようとしている)というのは
個人的にスリルがあって好きな展開でした。

そこから麗子が宝生邸を飛び出して
元カレから被害者側の偽証言者を守れるか!?
という緊迫した展開になるかと思いきや、
偽証言者が元カレを返り討ち(重症)にした連絡が入ったというところが
まあこのシリーズらしい、清々しさですよね。

第三話 犯人に毒を与えないでください

とある農家の当主が青酸カリによって死亡した。
これは自殺か他殺か。
というテーマ。

結論から言うと
「被害者がペットボトルを湯たんぽとして使用していた」ことから

自殺ではなく他殺だと確定し、
中身のお湯が常温になる時間帯
犯人が自殺のカモフラージュを準備する時間帯
から犯人が特定できて、
毒殺なのにアリバイが活きたという展開でした。

「湯たんぽで使用していた水で自殺はしない」という根拠で
自殺の線を打ち消していたのが若干、腑に落ちなかったんですけど、
毒殺って確かに現場にいなくても犯罪が成立してしまうものなので
逆に時間のアリバイで犯人を絞り込むというのは
新鮮味があって面白かったです。

第四話 殺意のお飲み物をどうぞ

議員の後継者発表のパーティーで
出席していた男性客が毒を盛られて亡くなった
という話です。

真相を言ってしまうと、
被害者は議員の後継者を毒殺しようと飲み物に毒を仕込んでいたんですけど、
意図せず飲み物の液体からはみ出している氷の窪みに
毒が入って溜まった状態となり、
時間差で飲み物と毒が混ざるようになってしまったのです。
それに気付かなかった被害者は
別の客の飲み物に毒を仕込んでしまったのだと勘違いして、
さらに「立食パーティーあるある」によって
誤って後継者の飲み物を飲んでしまい亡くなったわけです。

つまり自殺(被害者=犯人)です。

この事件に風祭警部と麗子と影山が立ち会うんですけど、
そこで風祭警部は「他殺」として
議員の身内を犯人として断定してしまうんですよね。

しかし実際は議員とその身内はただ巻き込まれただけなので
風祭警部は議員の逆鱗に触れてしまい、
警視庁から左遷されることになって
幕は閉じるのでした。

そうやって「新謎解きはディナーのあとで」の
国立署に戻る風祭警部に至るわけなんですね。
まあ風祭警部いないと話は続かないですし惜しいキャラです。

少女漫画脳からすれば、麗子が国立署でピンチなときに
警視庁の風祭警部が助けに来るキュン展開を期待したかったのですが、
まあ風祭警部はいつかやらかす男なので警視庁も続かないと思っていました。

今回の小説は
トリックは簡単ですし会話のテンポも良いので
一夜で読み切りました。
うん、清々しい気分です。

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