異人たちの館(折原一)

2021/06/27

ネタバレあり 小説

異人たちの館(折原一)

失踪した小説家の伝記を作る話

今回、図書館で2冊借りたのですが、
どちらも文庫版なのに分厚くてびっくりした覚えがあります。
調子に乗って予約冊数を増やさなくて良かったです。

借りたうちの1冊である「異人たちの館」は
本編だけでも文庫本600ページ近くあり、読みごたえがありました。

以下ざっくりしたあらすじなんですけど、
8歳という年齢で児童文学の新人賞を受賞した経験のある小松原淳は、
27歳の秋に失踪。
母親の小松原妙子は捜索で息子が見つかることを祈る中、
とある広告を見つけ、の生涯をまとめた伝記を作ろうと出版社に依頼します。
依頼を受けた編集者は伝記のゴーストライターとして
純文学とミステリーの新人賞受賞経験のある島崎潤一を指名します。
創作だけでは食うことのできなかった潤一は最初こそは
報酬の良さに目が眩んでいましたが、妙子の話を聞きの部屋を見て
の一生を描くことに興味を抱き始めます。
潤一の遺物と関係者の取材から、の伝記作りに取りかかるのでした。

ってことで、小松原淳の謎を解き明かすミステリーです。

売れない小説家の生計とかギャラが生々しいスタートでしたが、
最初から読んでいて引っかかる謎が散りばめられていて
「早くこの真相を知りたい」衝動に駆られる構成でした。

ただ話が長いので一気読みは難しかったです(笑)
私のリアル事情もあって2週間強ほど
読むのに時間がかかってしまいましたが、
複雑なのに読みやすいので他人にもオススメできる内容かと思います。

ここから先はネタバレ

良評価したものの、
一気読みできない量のミステリー小説は私には合わないですね。
オチが気になりすぎて第3部に入ったあたりで
小説の終盤まで飛ばして少し読んじゃいました。

富士山麓で見つかった人骨はではなく
普通には生きていて、
さらに潤一が樹海で遭難している部分を読んでしまい、
読む気力が下がりました。(当然だろうね)

あらかじめ「叙述トリック おすすめ」の検索を参考にして借りた本なので
何かしら仕掛けはあるんだろうなとは思っていましたが、
仕掛けが色々ありすぎて最後まで読んだ後も未だに少し混乱しています。

叙述トリックの小説って、ある時点で「うわっ!」となる感覚があるんですけど、
今回の小説は、多重文体という手法が使われていて、地の文の他にも
遭難者のモノローグ、年譜、インタビュー、が執筆した短編小説など
色んな文体が錯綜し、それぞれが色々な役割を持っていたので
「叙述トリックを読んだぞ!」よりは「壮大なサスペンスドラマだったな…」
という読後感の方が強かったです。

小松原潤一

あらかじめ「叙述トリック」の情報を知った上で読むと、
モノローグに登場する遭難者はのように見えて潤一なんじゃないか?
と最初から疑い始めることは簡単なのですが、

この遭難者は自分の名前を「こまつばら」「こまつばらじゅ」「小松原」と
言うものだから、どう引っくり返っても島崎潤一に当てはまらないんだよな…
と半ば諦めて読み進めていました。

ところが、第3部 胎内回帰の「開かれた窓」の直後の話。
潤一の婚姻届で一気に鳥肌が立ちました。
潤一小松原になれる方法があったことを完全に失念していました。

小松原淳の妹と結婚したら小松原姓の選択が可能なことを。

よくよく考えると遭難者のモノローグは作中と時間が繋がっているわけではなく、
未来の話になっていたんですね。
作中の話が進むにつれてモノローグの時間軸に近づいていき、
作中とモノローグの時間軸が重なると同時に
モノローグの遭難者はではなく潤一だと判明するわけです。
あー、こういう時間と人物が掛け合わさった叙述も好きです。

正直なところ、の父親が外国人であり幼かったを連れ去った犯人であることや、
ユキはそれぞれの連れ子ではなく血が繋がっていることあたりは
種明かしを読まなくても想像がつきました。

先程感想した、潤一ユキと結婚したら小松原の姓になれることと、
(厳密に言えば婚姻届をまだ役所に出していないので潤一はまだ島崎なのだが)

潤一の母親のが想定外な役回りをしていたと発覚したところが、
この小説においての個人的鳥肌ポイントでした。

島崎葵小松原ユキの復讐

樹海に放置して潤一を陥れた犯人、へ復讐する内容として
ユキが選んだものは、
が父親を殺した事実を表沙汰にさせ、
と母親の妙子を社会的に抹殺することでした。

ユキ潤一との子どもを妊娠していたことから
孫という贈り物をに遺せたので
少しは救いのある結末でしたが、
潤一の子という明確な記載はないけども)

潤一が生還してを直接独房へ葬り去るスカッとしたエンドを
ほんのり私は期待していました。

潤一が志半ばで退場してしまうのも、
母親のの方が思考も文章も息子より
うわてだったってことなんでしょうなあ。
分かるんだけど、報われないなあ…

ミステリー小説の中では比較的ハッピーに近いエンドですが、
主人公であろう潤一が不憫でならなかったです。
あと、家政婦の静江は何かあると踏んでいたんですけど、
本当に何も無かったですね。
…無かったんでしょうか。

家政婦さんの物語上の役割って
異人や追跡者たちのミスリードだけだったのか、
それとも何かあったのか。
誰か、分かる方は教えてください。

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