十角館の殺人(綾辻行人)
犯人が当たっても見事に騙される
遂に感想記事初の綾辻行人作品
「十角館の殺人」です。
ストレートに言って「面白い」です。
多分、「面白くない」と言う人は
いないんじゃないかと思うくらい
万人向けな内容だと思います。
構成は次のようになっています。
- プロローグ
- 一日目・島
- 一日目・本土
- 二日目・島
- 二日目・本土
- 三日目・島
- 三日目・本土
- 四日目・島
- 四日目・本土
- 五日目
- 六日目
- 七日目
- 八日目
- エピローグ
ミステリ研のメンバーが
角島(孤島)の十角館に滞在している間に
次々と殺されていく「島」サイド、
十角館に行かなかった元ミステリ研メンバーが
かつて角島の青屋敷で亡くなった死者からの手紙を受け取り
聞き込み調査で過去の真相を探る「本土」サイド、
この2つのサイドから物語は展開されます。
大真面目に推理しながら読んでも
六日目最後の一行で
「だ、騙された…!!」
となるんじゃないかと思います。
となるんじゃないかと思います。
ここまで読んで気になる方は
この感想記事をすぐにでも閉じて
小説を読んでもらいたいところです。
ネタバレを知ったら
面白さ半減することは確実なので
既に読んでいる方向けの感想として
下に書き連ねたいと思います。
ここから先はネタバレ
この小説に出てくる事件・事故は
下記の3種類
- 角島十角館での大量殺人(現在進行形)
- 角島青屋敷での四重殺人(約半年前)
- ミステリ研新年会三次会での中村千織の急死(約1年前)
勿論、メインで推理しなければならないのは
「1.角島十角館での大量殺人」の犯人
なわけですが、
メイン事件の犯人の動機を考えるにおいて
「2.角島青屋敷での四重殺人」と
「3.ミステリ研新年会三次会での中村千織の急死」を
無視できません。
私の場合、
この動機の部分で見事にミスリードされたので
後々の「だ、騙された…!!」へ繋がるのですが
それはひとまず置きます。
状況だけ考えれば
本土サイドにいる
守須恭一がメイン事件の犯人だと
私は最初に決めていました。
というのも彼は日中の聞き込みには参加せず
安楽椅子探偵を気取っていました。
一日目から時間を気にしながら読んでいたのですが、
(結構時間の表記が多かったので気になってはいた)
本土サイドの守須の登場時間って夜遅くに限定されていたので
一日目夜から「守須が十角館の犯人だわ…」と決めていました。
(※島サイドの殺人は三日目朝からです)
守須が島と本土を行き来しており
日中は島で色々と仕掛けているんだろうなと
予想していました。
ところが角島青屋敷で亡くなった中村青司の差出人名で
ミステリ研メンバーに送られた手紙
「お前たちが殺した千織は、私の娘だった。」の存在感、
本土サイドの「2.角島青屋敷での四重殺人」を
追究していくにつれて
「中村青司の弟である中村紅次郎が十角館の犯人ではないか?」
にやはり傾いていってしまうんですよね。
千織の本当の父親は青司ではなく紅次郎だと判明するので、
紅次郎は事故とは言え娘を死なせてしまった
ミステリ研(新年会三次会)メンバーに恨みがあるでしょう。
充分な動機です。
したがって最終的に私の中での犯人候補が
- 中村紅次郎
- 守須恭一
の二択になっていました。
読んでいた当時、
メタで考えると守須が犯人なら
パンチが弱いなと感じてしまい、
まだ紅次郎犯人の方が納得できるなと
思えてしまったんです。
なので紅次郎>守須へと
傾いていったそんな六日目最後、
守須の回答に衝撃を受けたわけです。
「ヴァン・ダインです」
欧米の推理作家名で呼ぶ風習には何かあるのだと
この小説内のミステリ研では
一部のメンバーが欧米の推理作家名で呼び合う風習があり、
島サイドでは全員があだ名で呼び合っていました。
- エラリィ(エラリィ・クイーン)
- カー(ジョン・ディクスン・カー)
- ルルゥ(ガストン・ルルゥ)
- ポゥ(エドガー・アラン・ポゥ)
- アガサ(アガサ・クリスティー)
- オルツィ(バロネス・オルツィ)
そして七人目の仲間が
- ヴァン(S・S・ヴァン・ダイン)
はい。ヴァン=守須でした。
この小説では犯人がなんとなく分かっても
騙されます。
島サイドの犯人がヴァンで
本土サイドの犯人が守須、
さらにヴァンと守須が同一人物だと分かれば
パーフェクトです。
思い返せば、
ヴァンの伯父が十角館を所有していて
ミステリ研のメンバーを招待したという
状況からして明らかにヴァンが怪しかったです。
ですが、この二人を結びつけるのは
流石に無理でしょう!!
同一人物に至れる伏線ありましたか??
(半ギレ)※下記で補足
さらに叙述トリック発動が
本当にエグい(誉め言葉)。
ヴァンは十角館に滞在する物資を運び
準備するために角島へ前乗りしていました。
他の六名は角島へ渡る際、
漁師に送り届けてもらっています。
ここで何が起こっているかというと
周囲には六人旅に思われていたことです。
なので周囲には角島十角館の事件は
全員死亡(6名)と映っていたのです。
全員(6名)の遺体の状況から
(島サイド最後に残った被害者の)
エラリィが他の五名を殺害し
自身は焼身自殺した、
という警察の見解でエピローグに入ります。
※補足
守須とヴァンの煙草の銘柄「セブンスター」が
同じということですが、
江南もセブンスターを持っているんですよね。
(江南が島田に煙草を渡す際の描写より)
なので同一人物説の伏線としては少し弱い気もします。
後押しとして
守須とヴァンの一人称が「僕」で
江南の一人称が「俺」で分かれているから判別できるか…?
という仮説を立ててみましたが、
江南も「僕」(多分、年上に対して使い分けているのかな)を
言っているシーンがありこれまた弱いので何とも…
まあ、そもそも
日中聞き込みしている江南には
島との行き来は
不可能なんですけどね?
ヴァンが怪しい
⇒ヴァンと同じセブンスターを持つ江南と守須も怪しい
⇒江南はずっと本土で活動しているから怪しくない
⇒ヴァンと守須が怪しい
⇒ヴァンと守須は同一人物なのでは?
…みたいな解法ならワンチャン行けたか??
一気読みせずに一人ずつ精査しながら考えれば
同一人物説に行けたかもしれないですが、
作者があえて読者へ気付かせないようにしている印象なんですよね。
あの一行のために。
因みに終盤まで生存していた
エラリィは「セーラム」
ポゥが「ラーク」です。
この小説の喫煙率がヤバいです。
同一人物の伏線で強いて言うなら
一日目本土サイドの話で
江南からかかってきた電話を受けて
(寝起きの)守須の第一声が
「ああ、ドイル…」だったのが、
直前までミステリ研の仲間と一緒にいたから
引っ張られたのかな?
と一瞬脳裏を過ぎったんですが、
コイツ…直後に
「三十分ばかり前、電話してたんだよ」って言って
ごまかしているような…
という思考を経ての半ギレです。
「そして誰もいなくなった」
以前の小説感想記事にも取り上げた
アガサ・クリスティーの
「そして誰もいなくなった」を知っていると
随所に要素が散りばめられていて
より楽しめました。
(ただ先入観でより騙されやすくもなりました)
プロローグで犯人の守須が
計画の内容を記した告白の手紙を
ガラス壜に入れて海に流すのですが、
「そして誰もいなくなった」でも
ガラス壜の中の犯人による告白文が登場しています。
ただし「十角館の殺人」では
「そして誰もいなくなった」とは違い、
誰もいなくなったわけではないので
守須の独白で種は全て明かされます。
さらにエピローグで守須自身が
ガラス壜を拾ってしまうので
島田潔に瓶(審判)を委ねるという役目を果たして
物語は終幕しています。
この小説の探偵役はエラリィ(松浦純也)でも
江南孝明(ドイル)でも読者でもなく
島田潔なんじゃないかと個人的に思います。
真相に辿り着いた探偵こそが
犯人告発の権利を与えられており、
守須は島田潔こそが探偵役(審判者)に相応しいと
そう考えたのではと私は読み取りました。
少なくとも読者の私は敗北しているので、
そのような意味で受け止めました。
エラリィにとってのミステリとは
エラリィはヴァンにとって
島の中でそこそこ厄介な存在でした。
(本土含めたら一番が島田潔でしょうね…)
エラリィの最大の敗因は
中村青司は生きており
十角館の犯人は中村青司
だと固執したことです。
正直、11個目(地下室)の部屋を見つけ
青屋敷の殺人で行方不明だった
吉川誠一の遺体が出てきた時点で
「青司は吉川の身代わりをせずに死んだ」
=角島青屋敷の関係者は全滅してる
と気付いて欲しかったです。
あとルルゥの死体を運び終わり
エラリィがヴァンにコーヒーを淹れてくれないかと
頼んで一度断られているのに、
その後(吉川の死体を見つけた後)の
ヴァンが淹れた睡眠薬入りコーヒーに対して
何も不審がっていないのが甘すぎます。
「さっきコーヒーを淹れてくれなかったのにどういう風の吹き回しだい?」
とか言って抵抗して欲しかったところです。
どんだけ他人にコーヒーを淹れてもらいたかったんだエラリィ…
せめて序盤で亡くなったカーが
もう少し長く生き延びていれば
ヴァンを追いつめられていたと思います。
今思えば、二日目のカーの指摘、
「まずヴァンを疑ってかかるのが常道」
「集まりの招待者か主催者が犯人、さもなくば一枚噛んでる」が
普通に正解を当てていたという。
このカーの指摘に対して
「招待者が犯人はありきたり」と返したエラリィと
「不毛」と答えたポゥが
ラストのワン、ツーで残されたことに
残念さを感じます。
カーと対照的なエラリィだからこそ
カーが容易に当てた「ヴァン」を
エラリィは最後まで見抜けなかったんだろうなと
思うことにしました。
それでもエラリィは閃き型
(観察で発揮するタイプ)だと思うので
探偵役としては駄目でも
ヴァンの計画を掻き乱す良き道化役に
なったのではないでしょうか。
エラリィの掲げる
『推理小説は知的な遊びの一つ』は
エラリィ自身の犠牲により体現したことになります。
推理小説としては面白いのですが。
でもやっぱりエラリィには生きていて欲しかったですね。
誰にも分からなかった吉川の遺体を見つけた功労者なのですから。
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