屍人荘の殺人(今村昌弘)
ゾンビ
生物兵器により発生したゾンビから身を守るため、
主人公らは3階建てのペンションに立て籠もる状況となり
その中で次々と事件が起きていくという内容です。
いわゆるクローズド・サークルなのですが、
閉鎖空間の在り方が少し特殊だと思います。
これのどこが特殊かというと、
2点ほど挙げられます。
①活動範囲が徐々に狭まる
体力∞(ただし知能↓筋力↓)のゾンビが
外からペンションのドアを破って侵食してくるので、
人間の活動範囲が作中で徐々に狭まっていきます。
段々と制限が課せられる中で
殺人事件が次々と起きていく
変化を伴うクローズド・サークルとなっています。
②凶器はゾンビ
被害者はゾンビによって殺害されているので
閉鎖空間の外も推理対象になります。
また、これは人によってだと思うのですが、
犯人が既に亡くなった人物(ゾンビ状態)
ということも考えられるため
クローズド・サークル特有の
「生存者が減るにつれて犯人候補が絞られていく理論」で
推理して良いのか、
この小説では何とも判断つかない状態に(私はなりました)。
ゾンビなんてめちゃくちゃだし
どうせトリックもツッコミどころ満載なんだろうなと
色眼鏡をかけて読んでいましたが、
いざ最後まで読んでみると
想像以上にトリックがしっかりしていて
ちゃんとミステリー小説されていました。
すみませんでした。
偶然にも直前に「十角館の殺人」を
読んでいたんですけど、
その館シリーズが小ネタとして作中に出てきて
タイミング良すぎてびっくりしました。
「屍人荘の殺人」は綾辻行人先生と
館シリーズが存在する世界です(笑)
なのでもし「屍人荘の殺人」が気になる方は
①「そして誰もいなくなった」
②「十角館の殺人」
③「屍人荘の殺人」
の順に読みましょう!!
(全員作者がチガウヨ)
ゾンビが出るってことで
オカルトとかSFあたりの作風を
想像されそうですが、
ゾンビの定義が理解できればトリックは論理的なので
真面目に推理しても満足度の高い内容に
なるんじゃないかと思います。
そして特殊なクローズド・サークルと言っても
見取り図がキーアイテムなことに
変わりはありません。
今回、私も見取り図を見ながら
読み進めていたのですが、
違和感に…気付きませんでした。
多分、建物の間取りに見慣れている人は
確実に違和感を覚えて、犯人が分かると思います。
私はそのタイミングで別のとこに違和感を覚えたので
そちらに気を取られていました。
ということで前振りの話が長くなってしまいましたが
まだまだ感想は続きます。
ここから先は
ネタバレを交えた感想になりますので、
犯人を知っても大丈夫な方だけ
読み進めていただければと思います。
ここから先はネタバレ
今回、ところどころ小休憩しながら読みました。
(それでも1日で読めたので読みやすかったです)
というのも小説を読むにつれて
主人公が不穏になっていって、
読み進めるのを何度か躊躇いました。
殺人の動機を考えれば
「犯人が女性である」と分かるんですけど、
私の場合、主人公のポジションとして
- ゾンビになった犯人(女性)の意志を継いだ実行犯
- 人間の女性と共犯
の線をかなり濃く追っていました。
1番目の、進藤の事件のトリックについては
進藤を噛んだのは星川だと考えていたので
犯人がゾンビだったら
主人公は星川と組んでいたのか?
(そして主人公と星川の間には語られざるエピソードが…)
という想像をしていましたし、
人間の女性が犯人だったら
剣崎以外なら誰でも変わらないだろう
という心づもりでした(おい)。
あとは
高木が男だったら面白いな…
とかですね(おいおい)。
この小説の探偵役ポジション、
剣崎のアプローチ方法が
ホワイダニット:犯人がなぜこの方法を選んだのか
から推理を組み立てていくので
フーダニット:犯人(誰がやったのか)
のような「えええー!?」みたいな驚きや
ハウダニット:犯行方法・手法(どうやったのか)
のような「おおお…!!」みたいな感動は
他の有名どころ推理小説と比べて薄いんですけど、
作中の違和感ある状況(主に犯人の行動)に対して
全ての辻褄が合っていくので
全て分かると「すっきりっ!!」という
納得感がありました。
ただ、ここの紐解きが中途半端だと
主人公犯人説や主人公共犯説が浮上するので
自力で解くには意外と難易度が高くて
面白いです。
見取り図
感想記事の最初の方で
見取り図のタイミングで
それとは別の違和感を抱いたと
私は書いていたと思います。
本来あそこは
主人公の部屋のドアと
静原の部屋のドアを同時に開けても
顔を合わせられるはずがない、
何故なら
この2つのドアは背中合わせに開く形なのだから、
と気付くべき重要なポイントでした。
私はそのタイミングで何を考えていたかというと
直前の主人公の行動、
「鞄をまさぐっていた」に対して
「え…何やってんの主人公…?」
ええ、それだけです。
それが私の違和感でした。
そこからせめて時刻表現に注意を向けられたら
「え…どこにいるの主人公…?」
となれたんですけどね。
主人公がこのタイミングから
別の行動を起こしていて
それで「罪の意識」が芽生えてしまうので
非常に厄介。
ここをしっかり押さえておかないと
これまた主人公犯人説やら主人公共犯説に至るため
なかなか難しいものです。
視点
小説の中で印象に残っているのが
- 第四章冒頭
- 第五章冒頭
この2箇所。
初見とネタバレを知ったあととでは
読み方がガラリと変わるので面白いです。
素直な人は騙されてますよね。
因みに私は
1周目で混乱しました。
第四章冒頭は
動機を持った犯人視点なのに
第五章冒頭では
「俺」と言っているので主人公(葉村)視点。※
でも主人公に動機を持っているはずが無いんですよ。
という感じで
第四章冒頭の人物≠第五章冒頭の人物
の考えは1周目の私でも持っていました。
※重元と管野の一人称は「僕」なので除外
※立浪と七宮は被害者候補なので除外
しかしそのあと私は何を思ったのか、
高木って男じゃね?
という「高木が男の娘なら同一視点でもアリだ!」な
迷推理へと走っていくのですが、
…それはまあ、ここで忘れてください(笑)
第四章冒頭は、
進藤の事故死(星川に噛まれる)で
漁夫の利を得ようとする
立浪・七宮殺害の犯人「静原視点」
第五章冒頭は、
自身の腕時計を取り戻しに
出目の鞄を漁る「葉村視点」
真相が分かれば
もうそれしか読み取れない不思議。
進藤の事件(というか事故)と
立浪・七宮の事件の犯人が
別だと気付けなかったので、
私はまずそこからですね。
そう考えると、
それを踏まえて静原を犯人と当てなきゃいけないとか
マジで難易度高くないですか??
主人公
- 静原を犯人と知っていた上で黙認したことによる罪の意識
- 自分の物とは言え出目の部屋から腕時計を勝手に取った罪の意識
終盤の主人公、罪がカオス祭りだった件。
真相が分かったとき
私は主人公が事件に直接関わっていなかったことに
意外だと感じました。
立浪の事件については男性の力を借りた方が良くね?
と思って主人公関与も覚悟してたんですけどね。
(作中で女性1人でも可能だと証明されてたけど)
でも、主人公のツッコミがユーモラスで気に入ってたので、
主人公の生存&お咎めなしナシENDは
素直に嬉しい終わり方でした。
剣崎・葉村・明智のトリオ漫才が観られないことだけが心残りです。
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