内なる殺人者(ジム・トンプスン)

2019/10/30

ネタバレあり 小説

内なる殺人者(ジム・トンプスン)

本を選んだ経緯

私が借りる小説は大きく2種類あります。
  1. 個人的に好きで読みたくて借りる小説
  2. 創作の参考として借りる小説

真っ先に伝えたいのは、「内なる殺人者」は創作の参考として借りた小説になります。
自分の好みで借りたわけではありません。

あらすじを簡単に紹介すると、主人公が嘘に嘘を重ねて殺人を繰り返す話です。
オススメ本では無いのですが、紹介したかったのでブログに載せました。

訳者あとがきから先に読むことを推奨

読了して1つ後悔したことがあります。
あとがきから読めば良かった、と。
全体を掴んでポイントを押さえておかないと、展開を追うだけでは胸糞展開でしかありません。こういうタイプの小説はオチも限られてくるので、展開のみ楽しむというのは適切ではないように感じました。

訳者あとがきでも触れられているように、「一人称視点の小説であること」が1つの鍵になるのだと思います。

主人公に重ねて感情移入するのではなく、一線を引いて読者の立場で読むこと

私が以前のブログでこの小説について何故、虫唾が走ると述べたのか。
主人公に感情移入しようとして読んでいたからです。
はっきり言います。主人公は感情移入できるようなキャラではありません。

ここからはネタバレと私の解釈のオンパレードです。

この小説の醍醐味について。
主人公は読者を暗示にかけたり、騙してきます(被害妄想)。

最初に主人公がジョイスを襲ったとき、襲われたジョイスは意識不明の状態となります。
その後ジョイスは手術可能な病院へ移されますが、「麻酔から目覚めず亡くなった」と仲間の保安官から主人公は聞かされます。

主人公はジョイスが意識不明な状態の時点で「コンウェイは頭がおかしくなっているから(死ぬことが)わからないんだ」、亡くなったと聞かされたあとも「(死ぬことは)みんなわかってたはずだ」と言い、ジョイスが亡くなったのだと主張しています。
感情移入を試みていた当時の私は「ジョイスが亡くなった」と勿論思い込みますし、「ジョイスに死んでいて欲しかった」とさえ思いました。

しかしこの辺りの文章、仲間の保安官の会話が意味深で異様なのです。
そんなことにも気付かず、当時の私は「ああ、仲間の保安官はコンウェイになんか吹きこまれたんだな、気になるな」程度でスルーしていました。

そこから「ジョイスが生きていた」と気付いたのはラストです。

ラス前の主人公が飛行機を見たシーンで、ジョイスが乗っている飛行機だとする記述に
「( ゚д゚)ハッ?」となり、

次シーンのジョイス登場で
「Σ(゚□゚;)生きてる」となり、

その次シーンでは主人公の仕掛けにより爆発して物語が終わります。
( ゚д゚)ポカーン…

読者の立場を譲らず読んでいれば、ジョイスが生きていることなんて気付いた気がするんです。実は生きていたなんて、ベタな展開だと思います。
でも主人公はジョイスが亡くなったと主張してくるし、そう思っちゃうんですよ。
私の頭が良くないとか洗脳されやすいからなんじゃないかは置いておいて。

タチが悪いことに、おそらくこの主人公は読者の私が気付く前に気付いているんです。
気付いているにもかかわらず、教えてくれないんですよ、この主人公。
私が主人公を理解しようと寄り添ったはずが、最後気付いたら主人公に逃げられていました。

また、終盤のエイミーを殺したと記述する部分。物語が展開していく途中で「まだそのときのことを話す段階ではない」と主人公は何度か水を差して話を逸らします。
読者で遊んでいませんかね…?

主人公は狂人といっても筋の通った語り方をするので、なおさら現実味があるというか、物語の中へ入り込みやすいように感じました。
主人公、というか作者に騙された感があります。
だがそこが良い。

そういう見方があるということを発見しただけで、ただの胸糞小説ではなくなり、面白い小説へと昇華したように感じました。

しかしもう1回読み直そうとは思いません。
掘り起こせばどんどん出てきそうですが、この小説に関しては1つの面白い解釈を見つけられれば良いかなと満足しちゃいました。

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